switch9’s blog

地球のみなさん、こんにちは

表現者がたどり着く自己循環という終点、という話 (You Rock My World / Michael Jackson)

 本日の1曲はマイケル・ジャクソンのYou Rock My Worldです。

 

 先日、ニュースにもなってましたが、マイケル・ジャクソンさん、故マイケル・ジャクソンさんですね、残念ながらお亡くなりになってしまいましたので。そのマイケルさんの2016年度の年収が825億円だったそうで。もう亡くなってんのに。はっぴゃくにじゅうごおくえんって言われても全然ピンとこないんですけども、ともかくオレあと何年働いたらいいんだっていう、めまいしそうな天文学的な数字なんですけども。

 

 音楽活動っていうのは山登りと似てるところがあってですね、マイケルさんもアルバムを出すごとにどんどん音楽という山を登っていったわけですね。

 で、これは個人的な好みもあるんですけども、92年に出したDangerousっていうアルバムで、マイケルさんは音楽という山の頂上を極めてしまったような気がするんですね。ついに前人未到の頂きに達しちゃった。でも、山登りって頂上に着いちゃうと、あとは降りるしかする事ないんですよね。そこに住むわけにもいかない。

 その数年後にHIStoryっていうアルバムをリリースして、これも、もちろん素晴らしい曲がいっぱいなんですけど、なんとかしてその山の狭い狭いてっぺんからバランス崩して落っこちないように踏ん張ってるっていう感じがどこかにあって。まあ、それだってとんでもない事なんで、真似しようたってできるもんじゃないですけどね。でも、どこか「行き場を失いかけてんなー」って感じが漂いはじめるんですね、このあたりから。

 

 Dangerousまでのマイケルはクインシー・ジョーンズとかテディ・ライリーとか一流って言われる名プロデューサーとタッグを組んで、共同プロデュースっていう形でアルバムを出してて、そうやって他の人と組むことで自分が気づいてない魅力を引き出してもらいつつ、外からの刺激も受けることで新しいものを創作してたんだと思うんですね。他人の目線で冷静に一歩引いて見てもらうって非常に大切なことですから。

 でも、HIStoryに関してはセルフ・プロデュースになって。多分、自分自身のあるがままの、今伝えたいことを率直にを表現したいっていう想いもあったんじゃないかなあと思うんですけども、でも、一方でそれって可能性を狭めかねない危ない選択でもあったんですよね、今思うと。

 

 前置きがちょっと長くなりましたけど。そして、そのHIStoryから数年後にInvincibleっていうアルバム、これが生前最後のアルバムになっちゃうんですが、これをリリースして。そこに収録されてるのが今日の1曲としてピックアップした、You Rock My Worldです。

 なんで、この曲を取り上げたかというとですね、これはあくまで想像なんですけども、この頃になると、おそらく制作に関わってるスタッフがみんなちっちゃいときにテレビの向こうのマイケルと出会って衝撃受けて、「あんなかっこいいことオレもアタイもやってみてえなあ」って憧れを持って音楽業界に入ってきたような世代だったと思うですね。

 だから昔みたいにマイケルの魅力を引き出そうとするんじゃなくて、無意識のうちに、各人の中のかっこいいマイケルを目指しちゃったんじゃないかなあと思うんですよね。この曲のプロモーションビデオがあるんですけど、その中のマイケルがですね、「これそっくりさんじゃないよね」って思ってしまうぐらいに、ウソっぽいっというかぎこちないというか、見てるうちにだんだんマイケルっぽい動きをしてる誰かにしか見えなってくるんですね。もちろん本人なんですけど。演出とかダンスもなんていうか昔どこかで見たような断片の寄せ集めみたいな感じで。

 しかも、マイケルだっていつまでも心身のピークを維持できるわけではないですから、衰えがある。でも、みんなの心のなかにある理想のマイケルを裏切るわけにはいかんとなんとか奮闘しているように見えて。違う意味で色々と心に響いてくる映像なんですね。「まずいなー、このままだとマイケルまずいなー」って。

 

 若いときに名プロデューサーに見出され、その後、自分自身の表現したいことも追求して、その先で、過去の栄光へのみんなの理想に応えようとする、自己参照っていうか、自己循環にたどり着いちゃって。普通の人なら、もうここで「はい、おしまい」って下山しちゃうんですけど、ところがマイケルはね、やっぱり我々とは違ったんですね。

 おんなじとこをグルグル回るだけの自己循環から抜け出す唯一最後の手段が、自分の音楽に対する考え方とかパフォーマンスの技術とかそういうものをちゃんと次の世代に伝えることだって、そのことに気づいてて。「いいかお前ら、音楽っていうのはこういうもんなんだぜ」って。で、あのドキュメンタリー映画にもなりましたけど、THIS IS ITっていうライブ、まあ実際にはリハーサルだけになってしまったんですけども。あれをやったんじゃないかなあと思うですね。マイケルはどこか神様みたいなとこがありますから、多分自分の死期も悟ってたんだと思うんですね。伝えるならもう今しかないって。

 

 あのリハーサルにパフォーマーとかスタッフとして関わった人も、もちろんあの映画を見た人も、マイケルが人生をかけて音楽で何をしようとしたのかをすべて理解できたと思うんですね。あと何枚アルバム出しても伝わらない漠然とした何かを自分が歌って踊ってみせることですべての人が理解できる言葉に変換してくれたみたいな。劇中でオルテガ監督も言ってましたけどまさにチャーチ・オブ・ロッケンロール、ロックの教会ですよ。普通ならどうやっても抜け出せない自己循環も、あの人だからこそ抜け出して、そして有史以来の最高のミュージシャンになれたんですから。やっぱり、あれですよ、「オレの年収何年分だよ!?」とかそういう失礼なことは言っちゃダメですよ、偉人ですから。いやほんとに。

 


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